ルート
丹沢の東部には不動尻と呼ばれるミツマタの大群生地があります。3月になると多くの登山者や観光客がミツマタを見に訪れます。そこには個体数が少なくて珍しい黄色い葯のハナネコノメや準絶滅危惧種のムカゴネコノメソウも存在しています。登山者として、鐘ヶ嶽への登頂も今回の目的です。前日の雨で水量の多い不動の滝を見ることはできるでしょうか。
まずは伊勢原駅からバスに乗車して広沢寺温泉入口バス停で下車します。本厚木駅にある厚木バスセンターからもバスが出ており、下車するバス停は同じです。終点の七沢バス停で下車しても不動尻への距離は変わりませんが、バス料金が高くなるので注意です。
広沢寺温泉入口バス停から県道64号を進まず、脇の坂道を進みます。道端にはヒメウズが咲いていましたが、毛虫が側にいました。近くに簡易トイレが設置されているのでトイレに困らず、またバス停手前にコンビニもあります。道中の林道に別の簡易トイレがありますが、大量のトイレットペーパーで詰まっていました。
今回の道は不動尻のミツマタを見るだけなら、危険な箇所はありません。しかし不動の滝へ足を延ばす場合は、少し難易度が上がります。実際に、頭から流血しながら滝から他の人に支えられて下山する人がいました。
バスがほぼほぼ来ない鐘ヶ嶽バス停に到着しました。右へ行けば鐘ヶ嶽経由で不動尻へ行けますが、今日は左の林道経由での不動尻へ向かいます。帰路は鐘ヶ嶽に登って、ここまで戻ってくる予定です。
本当は、不動尻から引き返さずに谷太郎川の沿道である「林道谷太郎線」を歩いて、煤ヶ谷バス停からバスに乗って帰宅しようかとも考えていました。しかし鐘ヶ嶽へ登山したいのと、左の林道も歩きたい気持ちがあったため周回コースにしました。ヤマビルが出たらこっちの方面はなるべく歩きたくありません。今日は吸血する奴を見かけませんでしたが、昨夜の雨風と暖かい気温のため、実際に出没したとの情報を後で知りました。
地図を持参しなくても大丈夫なように案内看板が設置されています。さすが一定の知名度がある観光地です。車が沢山停めてある広沢寺温泉駐車場を通過します。
オニシバリは、名前の通り樹皮が丈夫で鬼も縛れます。ただ、縛るには植物の背丈が足りずに縄の役目ができないだろうと思います。
林道を歩きます。山野草に興味ある人はここで立ち止まり、興味ない人はそのまま通過する場所になっていました。それ故に、鐘ヶ嶽へ登らずに、先にここを歩こうと思いました。
黄色の葯を持っているイワボタン(ミヤマネコノメソウ)です。変種のヨゴレネコノメと似ていますが、葯の色が異なっているのが見分け方です。
暗紅色の葯を持っているのがヨゴレネコノメです。変種と基本種どっちが好みかと聞かれたら、難しい質問になります。山野草が好きな人の中には、ヨゴレネコノメにハートを射抜かれた人もいます。
暗褐紫色のイワボタンと緑色のヨゴレネコノメです。先程の個体とは葉の色が逆になっています。どちらも暗褐紫色と緑色の個体がいます。葉の色でどっちの種であるかの判断はできません。色の違いは何が原因なのか、時間経過によって変化があるのか気になる植物です。
ヤマネコノメソウです。今回は5種類のネコノメソウ属を見つけました。二の足林道ゲートではダンコウバイ(花柄なし)もしくはアブラチャン(花柄あり)が咲いていました。似ている樹木のため、見分け方を知りませんでした。花柄の有無で見分けられるようで、花柄がないため、枝に直接花が付いているのがダンコウバイです。勉強になるけれど、どっちがどっちだか忘れるはずです。植物路線まっしぐらになりつつあるこの頃です。
山神トンネルは県内で有数の心霊スポットらしいですが、前にも後ろにも人が行き来しているため、恐怖はありませんでした。ミツマタの時期以外は人通りはないと思われるので、そんな時の通行は避けたいです。
ハルユキノシタが咲きだしていました。関東から近畿地方のみに自生する日本固有種です。似ている植物として、ユキノシタは上部の花弁3枚にピンク色の模様がありますが、こちらはありません。同属のダイモンジソウにもなんとなく似ています。
ヒトリシズカは、これからもっと成長して大きくなります。個人的にはもっと小さい頃の姿の方が圧倒的に「わび・さび」の雰囲気があり、好みです。
緑色を帯びた白い萼片の先端に赤い斑点があるハナネコノメです。葯が2色になっています。肉眼だと黄色い葯は、本当に葯なのか、黄色い花粉なのか分かりにくいです。
ムカゴネコノメソウは花なら何でもお任せの高尾山には、存在しない植物です。葯がすぐ落ちて、花粉が丸見えの印象なのですが、私が出会うタイミングが悪いだけなのかもしれません。
ムカゴネコノメソウの種子です。既に花が終わっている個体も多いです。実は黄色い葯のハナネコノメを見つけられるか、危惧していました。昨夜の雨風や3月下旬という時期のため、黄色い葯のハナネコノメを見つけられても葯が落ちている可能性がありました。
ミツマタの群生地である不動尻に到着です。汚れずに座れそうな場所は既に人で埋まっているくらい、混雑しています。例年だと少し来るのが遅いと思っていたのですが、今年はちょうど見頃でした。終盤になると黄色い色素が抜けて白くなるそうです。
上からミツマタを見下ろすと花の白い裏側が光り輝いて見えます。
ここら辺からシチミ尾根(白滝沢右岸尾根)と呼ばれる登山道の始まりです。滑りやすく片側が切れ落ちている細い道を進みます。昨日の雨で増水した渡渉箇所を、設置されているロープを使って通過します。
不動の滝に到着しました。滝の写真だけ撮りに、ここまで来て引き返す登山者が一定数いるので、もう少し上部まで行ってから昼食にしました。
沢を背景にコケと葉っぱの絨毯の上で花を咲かせるハナネコノメは、絵面が良かったです。ただ、葯が結構落ちてて残念です。
昼食の準備をしていると頭から流血してタオルで止血している男性が上からやって来ました。同行の女性と通りすがりのベテランの人が応急処置をしており、若いカップルがバリエーションルートに迷い込んだのだと思います。私の同行者がザックから未使用のタオルを差し出して、それで頭を結んでいました。後で、山小屋の名前入りお風呂タオルだった気がすると同行者に言われ、少しショックでした。「温泉タオル集め旅」という温泉施設のロゴ入りタオルを集めながら入浴旅をする番組を何度も見てから、タオルに愛着が沸いてました。怪我の処置が優先、命が一番大事です。
不動尻へ下山する際、ストックを置き忘れてたので届けたのですが、私だったらザックもカメラさえも忘れそうです。自分が同じ状況になった時に、パニックになりそうなので、色々考えさせられる機会でした。
食事を終えたら不動尻へ戻り、歩いてきた林道も戻ります。これから山頂へ向かいます。
山神トンネルを通らずに、鐘ヶ嶽への登山道を進みます。トンネルの先にも山頂への道がありますが、どちらも山ノ神峠へ続いています。
山ノ神峠(山ノ神分岐)に到着しました。
展望はありますが、里山から見る景色は、いつもこんな感じです。景信山から見る景色に少し似ていました。
難所は特にありませんでした。オモトの葉とエビネの葉を見かけました。どちらもボロボロになっていると、見分けがつきにくいです。
標高561mある鐘ヶ嶽の山頂に到着しました。展望はなく、ベンチがあります。古くから信仰の山とされており、山頂の直下には浅間神社があります。参道を通って下山します。
浅間神社
桜が咲いており、季節は春なのだと、告げます。気持ち的にはまだコタツが欠かせない冬です。
一番奥には大山の山頂が見えます。所々に、展望があります。ただ下山するのみです。帰りのバスは行きと同様に本数がないので、計算しながら進むのがマイベストチョイスです。
浅間神社までは1丁目から28丁目までの石碑が置かれています。それぞれの感覚が短いので、そこまで苦にはならない数字でした。
無事に下山しました。広沢寺温泉入口バス停に到着すると、バス待ちの行列です。本厚木駅行のバス待ちと伊勢原駅行のバス待ちが混ざっているようでした。まだバスが暫く来ないので、ダイエットとバス代を安くするために、伊勢原駅に向かって歩くことにしました。
道端にヒゴスミレが咲いていました。分れ道バス停まで歩いたら、伊勢原駅までバスに乗って帰宅しました。分れ道バス停でちょうどバスが来る時間になるのと、このバス停からバス代が100円安くなるので、お得です。車内も混んでおらず、空いていました。
こちらが黄色い葯があるハナネコノメです。今回の植物探索で見つけた一番状態の良い個体でした。時期が遅いので、一部葯が割れて黄色い花粉が見えているので、紛らわしいです。
花をズームアップにすると、葯と花粉の違いが分かりやすいです。
丹沢では黄色い葯のハナネコノメは、他の地域と比べて圧倒的に見つかりやすいですが、赤い葯の個体と比べたら圧倒的に少ないように思います。
幾つも存在していましたが、半数以上がこのように、ほぼ葯なし状態でした。来年はもっと綺麗な個体を見れるでしょうか。
トウゴクサバノオです。トオゴクや、ノサバノオといった呼び方の間違いがあったり、覚えにくい植物です。漢字で書くと「東国鯖の尾」であり、分かりやすいです。感が良い人は、「サイコクサバノオ(西国鯖の尾)」と呼ばれる植物も存在することに気が付くと思います。