春から秋にかけて低山登山をする上で一番憂慮する存在はヤマビルです。活動時期は4月から11月までと長く、人間を感知すると、気が付かないうちに近寄って来て、血を吸われ、血が止まらず、また痒みが出てきます。またヒルの見た目や動きが苦手な登山者も多くいます。

ヤマビルに噛まれても基本的に重篤になりませんが、他の動物の血を吸うこともあり、様々な病原菌を保持しています。噛まれない対策や、噛まれた後の処置、そしてどんな感染症の危険があるのか知ることは大切です。

ヤマビルが生息する低山をホームグラウンドにしながら、1度も吸血被害に遭ったことがない秘訣を紹介します。

項目

ヤマビルに血を吸われない対策

ヤマビル
ヤマビルは登山靴から登ってくる。

ヤマビルは登山道の真ん中よりも、端っこや登山道から外れた落ち葉の下などにいます。極力、乾いており、日光が当たっており、落ち葉の少ない登山道の真ん中を歩くと、ヤマビルが足元にくっつくリスクを減らせます。またヒルが死滅するディート成分が入っている虫除けスプレーを事前に、登山靴に十分に吹きかけておくのも予防では大切です。

ズボンの先端にゴムが入っているものを履くようにします。登山靴の上に、ズボンの先端が来るようにし、ゴムをきつくしめて、靴とズボンの隙間からヤマビルを侵入させないようにします。足元にゲイター(スパッツ)を装着すると、ゲイターの中にヤマビルが侵入し、ゲイターを外さないと侵入したことに気が付けないため、着用はおすすめしません。

それでもヤマビルが多い地域では被害に遭うこともあります。定期的に立ち止まり、足元やズボンにヤマビルがいないかチェックするだけで、ヤマビルに取りつかれても吸血被害はかなりなくなります。赤ちゃんヒルは米粒より小さく、動いている姿しか視認できません。十分なチェックが必要です。

定期的な足元チェックは忘れがちだし、ヤマビルに怯えたくない人には究極の対策があります。それは、濃度の濃い塩水に浸した靴下を輪切りにし、輪切りにしたものを長靴のアッパー部分(足のすね当たりの位置)に巻くことです。長靴は昔から玄人登山者やボッカなどに愛用されており、塩による靴のダメージも最小限です。そしてヤマビルは塩だらけの靴下から上によじ登れないため、吸血されることは皆無です。

ヤマビルに血を吸われた時の処置

ヤマビルに噛まれると、ヒルジンと呼ばれる物質が体内に入ります。これは麻酔作用で噛まれたことに気が付きにくくし、抗凝固作用で止血しにくくします。

まずはヤマビルが皮膚にくっついている場合は、虫よけスプレーや塩をヒルにかけて自然と引きはがします。傷口を綺麗な水で洗いながら、傷口から血を指で押し出して、同時に体内のヒルジンも押し出します。抗ヒスタミン剤を塗布し、バンソウコウなどで傷口をふさいだら完了です。

ヤマビルによる感染症

ヤマビルには人間に対し病原性を示す可能性がある細菌が見つかっています。これらは日和見感染することが知られており、無理な登山で免疫が下がっていたり、高齢化や持病など体の抵抗力が普段より低い人に、発病します。

発症例は、全身じんま疹、発熱、頭痛、関節痛、全身倦怠感、リンパ節の腫れが1例、数か所に硬結と全身に丘疹が1例、他に日本紅斑熱や蜂窩織炎の事例などあります。

またヤマビルは他の動物の血を吸うことによって、他の動物からウイルスや細菌、寄生虫を保有します。これらは人間の血を吸う時に、人間に感染します。感染症は絶えず新しいのが出現するのが世の中なので、ヤマビルを媒介者として動物由来感染症に気を付ける必要があります。

ヤマビルが吸った血をDNA鑑定すると、シカ、カモシカ、サル、ウサギ、イノシシ、キジ、タヌキ、人間などです。一番多い吸血対象がシカで、蹄の間にある肉から血を吸い、繰り返し吸われると肉に穴腫瘤と呼ばれる穴が開き、そこにヤマビルが住みつくことで、ヤマビルが遠くへ移動します。

ヤマビルの分布域拡大

野生の鹿
高尾山

主にヤマビルの吸血対象である鹿の個体数増加や分布域拡大によってヤマビルの生息域も広がります。また無防備な登山者や、血を吸ったヤマビルを殺さずに放置してしまう登山者の影響でヤマビルの個体数や生息域が拡大しています。

2022年ではヤマビルが生息する丹沢の近くにある高尾山ではヤマビルは発見されていません。しかし鹿が目撃されるようになっており、いつ高尾山がヤマビルの巣窟として陥落してもおかしくありません。