今回登山する山は、日本で一番標高が高い富士山です。公共機関を使って日帰りが可能であるため、急遽登ることにしました。日本百名山に選ばれており、ご来光を拝まずに高山植物探しとお鉢を眺めるのが目的です。自宅の海抜がそんなに高くないため、その日の内に電車とバス、そして自分の足を使って標高3,700m程を上げ、そして標高3,700m程を下げるため、弾丸のようなスピードで標高のアップダウンがあります。夜間登山と違って時間制限があるので高山病や熱中症に注意が必要です。
まずは三島駅からバスに乗って富士宮口五合目に到着しました。三島駅行きの最終バスは7時間後です。そして標準タイムも7時間です。ですが富士宮駅行きのバスなら9時間後まであるため、問題ありません。
富士山保全協力金の1000円を支払って登山を開始します。富士宮口は静岡県であり、山梨県と違って入山料2000円が不要です。富士山の最高峰は剣ヶ峰であり、標高3776mあります。今日の装備は、雨傘とジャンパー、ストックです。天気予報では雨は降らなそうです。結局ストックは一度も使用せずに、足だけで登山できました。
六合目雲海荘に到着したら、遅めの朝ごはんにしました。各山小屋に到着する度に、標準タイムと実際の自分のタイムを比較し、三島駅行きの最終バスに間に合わなければ撤退する予定です。登山者や観光客で大混雑する吉田ルートと比べ、この富士宮ルートは人が少ないですが、吉田ルートで人数制限や入山料があるため、富士宮ルートに人が流れていると思います。予想外の渋滞でタイムオーバーにならないように気を付けます。
実は、今日は別の山へ植物探しをする予定だったのですが、花友さんからお目当ての山野草が出ていないことを教えていただき、急遽計画を変更しました。思いつきで登れるような簡単な山ではないことは承知しています。3000m級の山に登るのは、ちょうど1年ぶりになります。本格的な登山は1ヵ月ぶりです。
新七合目御来光山荘に到着しました。標高2700mを過ぎたあたりから、軽い頭痛を感じるようになりました。その位の標高で高山病になるのは、始めて北アルプスを登った時以来です。そもそも高山病になったのは、その時の1度きりでした。
少し大胆に息を吐きながら、酸素を取り入れて頭痛の緩和を試みます。ここまでで、標準タイムより20分早く歩いたのが原因の1つかもしれません。幸いにも症状は悪化せず、途中から身体が登山モードになり身体が軽くなりました。
登山道はとてもよく整備されています。所々で高山植物が咲いており、その度に足を止めて撮影タイムです。周囲の登山者を追い抜きながら登っていくと、時々「慣れているね。」みたいな声をかけてもらうことがあります。実際は高い山に登るために、運動もトレーニングもしていません。でもそんなことは内緒です。たぶん登山専用のマッスルメモリーがあるのかもしれません。登山そのものがトレーニングみたいなものです。マッスルメモリーの有効期限は最大で10年らしいです。
元祖七合目山口山荘に来ると、標高を3000m超えたことを知りました。疲労は蓄積され身体が重くなる度に、小休憩します。すると不思議なことに身体が身軽になりました。それを繰り返しながら進んでいきます。
今までは歩きやすい道でしたが、急に道が荒々しくなりました。富士山が火山であることを物語る地形です。今年は山開き直後から富士山で死亡事故が多発しており、元祖七合目でも7月11日に死者が出ています。リスク管理をしていても事故は起きてしまうので、撤退する勇気を忘れずに登っていきます。
悪天候や夜間だと低体温症で動けなくなり救助される登山者もいます。今回は日中ということもあり、常にハンディ扇風機を稼働させるほどでした。疲労により面倒くさくなって水分補給を怠ってしまわないように、大好きな炭酸飲料を持参し、それを優先的に飲んでいます。それでも日焼け防止のために被っていた帽子によって頭に熱がこもり、下山後に熱中症による軽い頭痛の症状が出てしまうことになります。高山病の頭痛とは違うものでした。
勾配もきつくなってきました。空は晴れたり曇ったりしています。雲と雲の間に晴れ間がある場合、そこから太陽光が乱反射して、紫外線の量が多くなることもあるため、注意が必要です。
八合目池田館に到着しました。標高が3250mあるため、日本で二番目に標高が高い山である北岳の標高3193mを超えました。北岳は南アルプスにあり、初めて北岳に登った時は、台風の接近によって林道が閉鎖されるかもしれない時でした。そうなると山に閉じ込められてしまうため、朝の4時過ぎに、北岳山荘から登山口である広河原へ急いで下山しました。
登山は想定外のハプニングが時々発生します。そんなトラブルを楽しもうなんて気持ちにはなれませんが、対処できるようになりたいものです。
八合目には医師が常駐しており、寄付金によって運営されています。高山病のための頭痛薬や酸素ボンベ等あります。体調が悪い時は、ここで山頂を目指すか、下山するか、救助してもらうか判断を仰ぐことができます。これより上には医師はいないため、最後の砦のような場所です。
今日は雲が多い日で、下界の景色はほとんどありません。山頂やお鉢が、いつガスってしまうのか、それだけ気になります。山は朝と夜は気温が下がるため眺望があり、日中は気温が高くガスったり雷雨になったりします。
ちなみに深く息を吐きながら登り続けています。酸素を身体に取り込むには、空気を吸うのではなく、空気を思いきり吐く必要があります。わざとらしく音を立てる位に息を吐いていました。他の登山者を追い抜いていくと、高山病や疲労で動けなくなってぐったりしている人を何人も見かけました。
雲の向こう側には駿河湾が見えていました。海が見えると標高差を実感します。今朝、家から電車で三島駅に向かう時は、富士山は雲に隠れておらず、綺麗に見えていました、しかし水ケ塚公園から富士宮口五合目へバスが向かっている時には、富士山が雲ですっぽり隠れており、展望は一切期待できないと思っていました。
登山道はジグザグになっており、ロープが張られています。ストックを一切使わない代わりに、どうしても足が重い時は、ロープを掴んで少しだけ力を借りてしまいました。足が元気な間は、ストックを使わないのがマイポリシーみたいになっており、使っても渡渉時の安全確保くらいです。
ただ足を酷使し続けたまま年を重ねていくと、突然に足がお釈迦になってしまうこともあります。ストックと靴修理に役立つ結束バンドは登山する度に持参する必需品です。
小銭がいっぱい挟まった枯れ木の門のような場所まで来ました。鳥居の脚らしいです。小銭を朽ちた鳥居の窪みに入れるのは、ご利益ではなく罰が当たりそうな気がしました。実は、こういう場所は富士山だけでなく、広島県にある厳島神社の鳥居や、鹿児島県にある霧島神宮の鳥居も同様の状態だったりします。そして小銭によって柱の劣化が進んでいたりするのだとか。
小銭はお賽銭箱に入れてこそ、ご利益があると思っているので、頂上にある富士山本宮淺間大社奥宮でお賽銭をしようと思います。
九合目万年雪山荘に来ると疲労で食欲がありません。登山をすると食欲がなくなるのは毎度のことです。ほぼ何も食べずに登山を続けた結果、エネルギー不足になってフラッとよろめいた経験が過去に1度あります。それ故に、持参した今川焼きを半分だけ食べました。
ちなみに新七合目では標準タイムより20分早いペースだったのが、九合目では40分早いペースになっていました。それでもちょくちょく休む回数は増やしています。ほんの僅かだけでも休憩すると、身体が宙に浮いたように軽くなり、サクサク登れてしまいます。マッスルメモリーのおかげでしょうか?
万年雪山荘と山小屋の名前にあるように、夏でも雪渓が残っていました。
九合五勺胸突山荘までやって来た。ご来光を見るために胸突山荘や頂上富士館に宿泊するのは、少しリスクがあるように思います。標高が高い場所で仮眠すると高山病になりやすくなり、高度順応のために宿泊するのであれば、七合目とかが良いのではと思います。富士宮ルートはお鉢まで行かないとご来光を拝むことが難しいため、お鉢にある頂上富士館に宿泊したいと思ってしまうんですけれどもね。
前日は雨が降る時間帯もあったようですが、今日は傘の出番がなく良かったです。雷だと傘は避雷針の役割をしてしまうこともあります。特に標高が高い場合は注意が必要です。
今までは頂上が見えているのか、偽頂上が見えているのか良く分からずに山頂を見上げていましたが、今見えているのがお鉢だと確信しました。
急な登りはあと少しです。ここにきて、身体が鉛のように重たく、動かなくなってしまいました。少し休めば身体が軽くなりますが、直ぐに重くなってしまいます。
お鉢巡りがある富士宮口頂上に何とか到着しました。すると不思議なことに、鉛のような身体は元通りになりました。平坦な場所になり、登りで使う筋肉を酷使する必要がなくなったからかもしれません。
富士山本宮淺間大社奥宮でお賽銭をしました。左隣にあった富士山頂郵便局や頂上富士館の中には入りませんでした。今回の登山で免疫が一時的に落ちることは間違いないため、風邪をひいたり、帯状疱疹になったりしないように気を付けます。
今回はお鉢巡りをする時間はありません。もし実施するなら、帰りは三島駅ではなく富士宮駅行きのバスに乗る必要があります。お鉢巡りをせずともお鉢の絶景は目の前に存在し、最高峰の剣ヶ峰へ行くには、お鉢を一部分だけ巡る必要があります。
剣ヶ峰です。急で滑りやすい斜面が最後に待ち構えており、実際に軽く転倒してしまいました。フカフカの蟻地獄だったので、怪我は特にありません。
すり鉢状の地形に爆裂火口のような迫力があります。ただ、中に落ちたら蟻地獄のように這いあがってくるのは困難かもしれません。
今回はご縁がないですが、富士山はお鉢やご来光以外にも沢山の魅力が存在します。グランドワゴニアという廃車が山の中腹で放置され観光スポットになっていたり、雪解け時期の5月にだけ出現するまぼろしの滝が存在します。また山頂ではなく宝永山を目指す登山も人気です。
標高3776mある剣ヶ峰の山頂に到着しました。日本の最高峰になります。日本人なら一生に一度は登りたい山と言われています。私は登山者として、槍ヶ岳、剱岳、そして富士山の頂に立ってみたいと思ってきました。そう思ってから何年もかかってしまいましたが、ようやく達成できました。山頂での写真撮影の列は短く、5分あれば順番が回ってきました。数珠繋ぎになっていなくて良かったです。
撮影タイムも終了し、剣ヶ峰から富士宮口頂上へ下山していると、視界はガスってきました。お鉢の景色も残念な感じです。待てば展望が良くなるかもしれませんが、そんな保障はないので、景色に間に合うように登頂と撮影ができて良かったです。
こちらの木のストラップは富士山保全協力金を支払うといただけます。年によってデザインが異なるので、毎年集めるのも楽しそうです。登頂した各山の登山バッジを収集する人なら、お勧めです。このストラップはフリマサイトで販売されており、昨年度のは2倍の値段である2000円で完売していました。
標高を下げていくと、視界が晴れたりガスったりします。日帰りの登山者は少ないのか、道を下っていく人は少なかったです。翌朝はご来光を拝むことができた天気だったようで、今から登ってくる人は無事に朝日を見れることになります。
団体ツアー客を何組も見かけました。必ず富士山専門山岳ガイドが付き添っていました。ガイドを1名雇う場合、1泊2日で50600円、そこにお鉢巡りオプション13200円が選べます。高齢者の場合はツアー参加が安心だと思いますが、私にとっては登山中に植物を見つけても自由に写真撮影ができないのがもどかしいです。
行動不能になることなく富士宮口五合目まで下山し、疲労で食べずにいた昼食を食べながらバスを待ち、バスに乗って帰宅しました。家だと、ばかすか食べてしまうお菓子も、山だとほとんど食べないのでダイエットできますが、あまりよろしくないのは頭の片隅にあります。三島駅行きのバスは乗車率1割未満と言える程ガラガラでした。
ここからは、富士山で出逢った植物を紹介いたします。
茎が赤みを帯びているためフジイタドリだと思いますが、オンタデとの違いを理解できていないため、オンタデの可能性もあります。オンタデは茎が緑色の印象です。フジイタドリはイタドリの高山型と紹介されることもありますが、イタドリのシノニムであるようです。
白と赤が混ざったような花のフジイタドリだと推測します。
赤花のフジイタドリで、赤い個体はメイゲツソウと呼ばれることもあります。と思ったら、オンタデかもしれません。
ムラサキモメンヅルは山梨県だと絶滅危惧種になっています。富士山でそれなりに見かける高山植物だと思います。
タイツリオウギです。同じ富士山に自生するイワオウギは花序が穂状に長く、花数が多いので、そこで見分けられます。富士山には自生していないシロウマオウギやリシリオウギ等、似ている植物はまだあります。
コケモモはほとんどが実になっていました。
コタヌキランだと推測しますが、イワスゲかもしれません。スゲはシダ植物のように地味な見た目で、苦手な植物です。タヌキランくらい特徴があれば嬉しいのですが。
ミヤマオトコヨモギ
イワツメクサ
萼と萼の間に付属片がないので、ヤマホタルブクロです。もし付属片が存在して、逆立ちをしているように反り返っているならホタルブクロになります。
萼片にギザギザが存在しないのでミヤマシャジンです。ギザギザがあるヒメシャジンも富士山に自生しています。
ミヤマアキノキリンソウ
ヤハズヒゴタイ
フナシクルマユリは花被片に斑点がないクルマユリの品種です。
フジハタザオは富士山固有の種となります。イワハタザオやミヤマハタザオ、ハクサンハタザオ等の似たような植物が日本には自生しています。