今年の八ヶ岳開山祭は中止になりましたが、前夜祭は山小屋で実施されるようです。今回はツクモグサやホテイランを鑑賞しに南八ヶ岳の稜線を歩くことに決めました。赤岳天望荘に宿泊する1泊2日の登山です。前夜祭のじゃんけん大会で景品を手に入れたり、記念バッジのプレゼントもあります。

まずは竹橋駅から毎日あるぺん号の夜行バスに乗って、美濃戸口へ向かいます。往復のバスと1泊2食付き山小屋の予約がセットになったパッケージを申し込んでいます。バスと宿泊を別々で申し込むよりも2,500円安くなります。夜行バスの後ろ3列は足元ゆったりシートになっており、早く申し込んだからなのか、ゆったりシートに座席が割り当てられていました。

茅野駅から美濃戸口までアルピコ交通のバスが出ていますが、一番早い到着時間が午前10時のため、断念しました。帰りは毎日あるぺん号のバスを使わず、茅野までバスで行き、電車で帰る方法もあります。

午前4時過ぎに美濃戸口に到着しました。満員だったバスを降りたら、八ヶ岳山荘の入口で出発の準備をします。

前回、八ヶ岳を登ったのは登山を始めて一年未満の時でした。今回と同じ硫黄岳や横岳、赤岳を登りました。その時は、コマクサやウルップソウ、ツクモグサを観に登ったのですが、ツクモグサは残念な姿しか見れていません。リベンジ登山にもなります。その時は、珍しいヤツガタケキスミレが咲いていた時期だったのですが、そんな植物が存在することも知らずに、通り過ぎています。

林道を歩き始め、クリンソウが咲き誇る赤岳山荘を通り抜け、美濃戸山荘がある美濃戸まで到着しました。行きは南沢、帰りは北沢を歩こうと思っているので、南沢を進みます。硫黄岳から宿泊する赤岳天望荘を目指すなら、行きに北沢を歩くのがタイムロスがないです。しかし南沢に自生するホテイランを天気が良い今日見たい気持ちがありました。翌日はなんだか雨が降るかもしれない天気予報です。

林道を歩いていた時は、何台もの車が追い抜かして行きました。赤岳山荘にある駐車場は午前5時過ぎには満杯になったように思います。同じ山小屋に宿泊した人の中には、茅野からレンタカーを借りて赤岳山荘まで来たが、ずっと待っても停車する事が出来ず、美濃戸口まで戻り、そこにあるJ&N(宿泊施設)に停めさせてもらったと言ってました。車は登山バスの高額なキャンセル料に怯える必要ないですが、満車問題は厄介です。

ちなみに赤岳頂上山荘は営業しておらず、八ヶ岳開山祭の中止もあって、かなり登山者人数が少ないです。例年は何時頃、満車になってしまうのでしょうか。

ホテイラン

絶滅危惧種のホテイランは、ロープで保護されており、簡単に見つかりました。葉の裏が紫色をしているので、花がなければヒトツボクロのようです。花はプレデターのようですが、気品があります。今年は咲き始めが早かったので心配していたのですが、6月の1週目でも、まだ綺麗でした。

ユモトマムシグサ

ユモトマムシグサです。八ヶ岳で見かけるものはタカネテンナンショウと呼ばれているため、どちらが正しいのかが情報不足で分かりません。

ツバメオモト

ツバメオモトです。「ツバメのお供」と呼んでいたら、側にいた登山者から正しい名前を教えてもらいました。その人は初めてこの植物に出会った時、「ツバメのイモト」と冗談交じりに教わったんだとか。ツバメとイモトアヤコで一度覚えたら忘れない覚え方とのことです。

ツルネコノメソウです。数あるネコノメソウ属の植物の中で、どれがどの種だか見分けられる程の知識と経験はまだありません。

登山道は比較的歩きやすいです。急登でもなく、整備されています。しかし、今日の装備は約13kgあります。使わないだろうけれど一応アイゼンを持ってきたり、デジカメや三脚、インナーシーツ、大容量充電器、今日の朝食と昼食など様々です。歩き始めてすぐに、その重たさに後悔しました。結局アイゼンや三脚は使わずに終わります。

宿泊を伴う登山は、今年初めてで、久しぶりでした。何を持参すべきか迷ったり、身体が登山者として覚醒していませんでした。翌日は身体が登山に適応して、筋肉痛もなく、快適になります。一度身体が登山者として目覚めてしまえば、次回以降の登山は重装備でも身体が楽になります。そして登山のシーズンオフになると、身体が休眠します。

太古を連想させる苔の森で、恐竜に遭遇しました。

キバナノコマノツメ

キバナノコマノツメは南沢や北沢で沢山見かけました。葉の縁に毛がある個体と、毛がない個体など個体差がありました。写真の個体は毛がありません。

苔の絨毯に光と木々の影が不規則な模様を造り、美しい景色です。晴れているからですね。本来は今日が梅雨入りの日だったようですが、実際は2日後に変わりました。

行者小屋に到着しました。事前の下調べでは、今日から営業のようですが、営業している雰囲気はありませんでした。ここにあるベンチで朝食にします。

今日のコースは、ここから赤岳鉱泉へ行き、硫黄岳と横岳を登頂してから赤岳天望荘に宿泊します。実は同行者が1名おり、体調によっては、行者小屋から地蔵尾根を経由して宿泊場所へ最短距離で向かうケースも視野に入れています。または、ここまでのコースタイムの遅れの状況次第で、硫黄岳へ今日は行かず、阿弥陀岳と赤岳を登頂して宿泊する選択肢もありました。

体調も時間も大丈夫なので、赤岳鉱泉へ行き、そこから硫黄岳に向けて登り始めました。時々残雪がありますが、転倒はしませんでした。途中で、硫黄岳山荘へセロリを届ける人や、赤岳天望荘へ給湯器を届ける人が追い抜かしていきました。花屋で買ったであろう菊の花を1本持っていたので、不思議に思っていたのですが、その理由は今夜の赤岳天望荘で黙とうする時に理解することになります。

ウスギオウレン

ふと登山道の脇でウスギオウレンを見つけました。終盤のようで、花弁のように見える萼片が全て取れて、結実した個体が大半でした。北八ヶ岳にあるオーレン小屋の名前の由来は、ウスギオウレンが小屋の周辺に自生しているからです。

綺麗に咲いているウスギオウレンを見つけました。両性花の個体です。

こちらは初見でした。今まで見てきたウスギオウレンの花は、淡黄緑色でした。セリバオウレンのように真っ白な花です。調べてみると、白花のウスギオウレンも存在するようです。花の形はやはりウスギオウレンで、中央の赤い部分は退化した雌しべなので、この個体は雄花です。

自分の浅い植物知識の外にある、未知のオウレン属植物かと思いました。葉は落ち葉の下に隠れています。

森林限界を抜けると、標高2,656mある赤岩ノ頭の山頂に到着しました。

山頂からは、阿弥陀岳の背後にある南アルプスが見えました。右の山が仙丈ヶ岳、左の山が甲斐駒ヶ岳です。その左には、北岳が阿弥陀岳の背後に隠れていますが、赤岳の山頂に登れば見えます。

南八ヶ岳の山々が見えました。景色がガスらずに安堵です。左から横岳、赤岳、中岳、阿弥陀岳です。翌日は赤岳と中岳を登ります。本当は阿弥陀岳まで登る予定でしたが、紆余曲折があり予定を変更することになります。

今日歩くコースは標準タイム8時間5分です。累積の標高は登りが2,044m、下りが792mあります。それを、植物観察や休憩、食事を挟みながら、12時間かけて踏破することになります。絶えず目を左右にキョロキョロさせながら植物を探しているので、挙動不審者モード全開で歩いてました。

美濃戸口から硫黄岳~赤岳を登り、美濃戸口へ下山するコースを日帰りでする登山者やトレラン者も多く、到底まねできません。

人混みもない登山道で、涼しい風の音だけを聞きながら進んで行きます。身体は荷物で暑いのに、涼しい風で絶えず冷やします。それが登山ならではの心地良さです。

遠くに見える雲の下には霧ヶ峰です。霧ヶ峰固有のキリガミネヒオウギアヤメや貴重なキリガミネトウヒレンが自生している場所です。北アルプスは、残念ながら雲の中でした。

硫黄岳

標高2,760mある硫黄岳の山頂に到着しました。ここで昼食にします。

イワヒバリ

硫黄岳の周辺では、イワヒバリが何匹も飛び交っていました。他の山頂や稜線では見かけませんでした。ライチョウやホシガラスよりも圧倒的に遭遇しやすい生き物ゆえか、出会えないと寂しい気持ちになります。

硫黄岳の爆裂火口は、実際に噴火で形成された訳ではなく、山体崩壊説が有力のようです。赤岳や阿弥陀岳から見る硫黄岳は穏やかな姿なのに、天狗岳の方から見る反対側は荒々しさがあります。

北八ヶ岳を構成する数々のピークや稜線を見渡せます。どれも未踏の地であるため、いつか登りたい憧れの場所です。日本百名山に選ばれている蓼科山がはるか遠くです。

ツクモグサが咲き誇る横岳を目指して先へ進みます。

ウルップソウ

ウルップソウは、早くも蕾でした。ウルップソウとツクモグサは、本州では南八ヶ岳、北アルプスの白馬岳周辺にしか自生していない希少な高山植物であるため、登山者に人気の花です。コマクサは葉だけの状態です。

硫黄岳山荘は営業していました。ここの開山祭前夜祭は毎年演奏会を催していたと思います。

オヤマノエンドウです。開花している植物の種類はまだまだ少ないですが、それでも色々な高山植物に出会えます。1ヶ月後には、イワウメが咲くでしょうか。

大同心はクライミングをしないので、ただ見るだけの存在です。

横岳の山頂に近づくと、「カニの横ばい」と呼ばれる場所が出現します。ここら辺からツクモグサを見かけるようになりました。渋滞が発生しやすいので、さっさと通過します。

横ばいを通ると、そのまま「蟹の縦ばい」を登ります。難易度はありません。高所恐怖症でも、何にも恐怖はありませんでした。

標高が2,830mある横岳の山頂に到着しました。キバナシャクナゲは結構な群生を見かけたのですが、ツクモグサは多くありませんでした。ツクモグサの群生地は横岳から赤岳の間、特に日ノ岳周辺に複数個所あるようです。

眼下には、長野県の田園風景がありました。

ミネズオウは岩場に自生する低木です。草ではなく樹木です。先程のオヤマノエンドウは草ですが、茎が木化して正確には半低木になります。厳しい環境で生き残るための適応でしょうか。

ツクモグサ

ツクモグサの撮影地に到着しました。太陽光がないと開花しないため、撮影するなら晴れた日の午後が最適です。翌日は天気が良くない予報だったので、今日鑑賞したいと思ってました。また翌日天気が良くても、まだ十分に開花していない午前中の訪問になってしまいます。

ツクモグサは、植物単体を撮影するよりも、背景に山を写して撮影するのが人気のようです。借景写真は、撮影がへたくそな私でも、ある程度見栄えのある写真が撮れます。たぶんです。厳しい自然の中で開花する姿は、観る者を魅了させます。

気が付けば、時刻は午後3時を過ぎています。早く赤岳天望荘に行かないと、山荘での夕食時間が遅くなってしまい、夕食と日没時間が被って沈む夕陽を鑑賞できない可能性があります。先を急ぎたい気持ちはありますが、ツクモグサのベスト鑑賞地に長時間滞在してしまいました。結果的には、夕食と翌日の朝食は一番遅い3巡目でした。しかし夕方から翌朝までガスと雨で日没も日の出も鑑賞できないことになります。

黄色い花を咲かせるツクモグサは毛が多く、小さい姿から、「ヒヨコ」に例えられることが多々あります。ヒヨコの大群でした。

山岳景色が好きで登山を始めた頃は、花にそこまで興味がなく、登山行程がどんどん遅延していくことはありませんでした。花に興味が出てからは、標準タイムで歩くことは難しいです。そして、どんどん時間が過ぎてしまいます。

ハクサンイチゲ

ハクサンイチゲが開花していました。見かけた個体のほとんどが、葉っぱだけの状態でした。今回見れると思わなかったので、とても嬉しいです。

クモマナズナです。

地蔵の頭まで来たら、山小屋まであと少しです。明日が雨だったら、ここから地蔵尾根を使用して下山しようと考えていました。地蔵尾根は赤岳展望荘で働くスタッフの通勤道になっており、難易度はありません。翌日は文三郎尾根で下山することになるのですが、どちらの尾根も歩きやすいです。

赤岳天望荘

赤岳天望荘に到着しました。受付時に不織布のシーツセットを渡されたので、持参していたインナーシーツは不要でした。宿泊する時は当たり前のようにインナーシーツを毎回持参していたので、事前に確認していませんでした。実際は、不織布のシーツセットを使わず、使い慣れたインナーシーツで寝ました。

今回宿泊する部屋は個室です。大部屋より2人で2,000円余計にかかりますが、プライベートを確保できます。個室は2階建てになっており、2階の個室を割り当てられました。1階の個室は窓の景色が石垣になっており、展望がなく、明かりを点けないと薄暗いです。それに対し、2階の個室は窓から景色が見え、自然光で明るいです。2階の個室は、富士山や赤岳、日の出が見える東側の個室と、そうではない日没が見える西側の個室があります。今回は西側の個室でした。

夕食はバイキングではありませんでした。内容は骨付きチキンやタラの芽の天ぷら、ナムル、炊き込みご飯、ミネストローネ、マッシュポテト、杏仁豆腐でした。八ヶ岳開山祭のバッジは宿泊者に無料プレゼントです。

バイキング形式だった時とはメニューの内容が大きく異なっていましたが、美味しさは全く変わっていません。タラの芽の天ぷらがサクサクしながら、柔らかく美味しいです。お代わり自由のミネストローネは疲れた身体に染み渡る酸味と豚肉の油が食欲をそそりました。炊き込みご飯のお米は、不味くありません。お代わりしました。

八ヶ岳開山前夜祭

食後はそのまま食堂に残り、八ヶ岳開山前夜祭に参加しました。最初に今年の4月に八ヶ岳で亡くなられた方への黙とうをしました。赤岳天望荘で働かれ、登山道整備に貢献された人のようでした。

夜祭に参加した宿泊者には生ハムやドリンクやスナックが振舞われました。夕食をたらふく食べた直後だったので、気持ち程度いただきました。

毎年恒例のじゃんけん大会では、山小屋のスタッフに勝ち続ける生き残り戦です。何を出すかは法則があると事前に公表しており、常連に有利な設定でした。終盤になってようやく法則を理解し、同行者に何を出すべきか伝え、二人一緒に祝御柱祭タオルをゲットできました。7年に1度行われる諏訪大社の御柱祭に引かれるモミの大木は八ヶ岳産です。それに関連するタオルでした。

ちなみに、一番最後の景品である無料宿泊券ハガキは、法則の対象外でした。

美濃戸口にある同系列の八ヶ岳山荘で無料のコーヒー券と入浴券、七味は全員プレゼントです。じゃんけん大会が終了したら、部屋に戻りました。外はガスっており、星空はありませんでした。夜間は雨が降り出し、早々に就寝しました。