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知れない街 - 7話:3月4日
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3月4日
 僕はコタツからまだ出られないでいる。あまり興味はないけれど、ニュースを見ているのはなぜだろう。
 「次の話題は、補助金企業が政治家に献金していた問題です。政治家はその企業が補助金を受けている事を知らなければ法律に違反しないとの事です。」司会者と評論家の議論が過熱している。
 「政治屋は法律に保護されていて良いな。」返答する事のないテレビにつぶやくのが僕の癖だった。
 「そんなあなたにチャーンス。知らなければ何をやっても良い世界に移住しませんか。」見知らぬ女性が話しかけてくる。いつの間にコタツに入っていたのだ。というより、どうやってこの部屋に入ったのだ。それよりも薄いピンクのスーツに長い金髪の若いお姉ちゃんに目が釘付けだ。
 「こんな所で何をしているのですか。不法侵入ですよ。それに、あなたは誰ですか。」僕は困惑した。
 「私はパラレルワールド移住権販売員のA子です。この世界って、責任に溢れていて、知らなかったでは済まされない事だらけ。とっても怖いですよね。私の住む世界なら、やってはいけない事を知らなかったと言えば、犯罪だって罪にならないのですよ。犯罪の被害に遭ったら泣き寝入り。だから被害に遭わないように、みんな仲良しです。それに報復を恐れて犯罪を実行しようなんて誰も思いません。報復してはいけないなんて知らなかった。素敵ですよね。」
 「そんな世界が成立するはずないよ。僕だったら、無責任な世界の方が恐ろしくて住めない。秩序も平和も保てないよ。」
 「なんとまあ。口だけで無責任なあなたが、そんな事を言うなんて怖いわ。こっちの世界は犯罪や紛争に溢れているのに。責任ある者は損をするって言葉を知らないのだわ。せっかく世間のはみ出し者に格安で売ってあげようとしているのに。もちろん前払いだけどね。じゃないと無責任適用されて私が困るし。」どうやらその女性の本音が漏れたみたいだ。
 「僕はこの世界の方が良いよ。責任を果たさない輩は僕を含めて沢山いて、無責任な奴が無責任な人を批判したりするけれどね。あなたは本当に無責任な世界が好きなのですか。」
 お姉ちゃんはしばらく黙った。そして肩を震わせながら小さく嗚咽した。
 「私はただ、騙されてこっちの世界の永住権と向こうの世界の永住権を交換してしまったの。あいつに騙されたの。お願い、私の永住権を貰って。」彼女の涙は暫く止まらなかった。
 僕とその女性はなんだか似ている気がした。そして彼女を騙した人も似ているのだろう。彼女の感情の矛先はどこへ向かえば良いのか。
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