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知れない街 - 6話:2月22日
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2月22日
 「はあ。」溜息がパソコンにぶつかる。一羽飛び去る。パソコンのスイッチが切れると、僕はもう一度溜息を吐いた。二羽飛び去る。
 ネットで知り合って仲良くなった友達。ネットの中だけの友達とは、友達なのだろうか。そんな疑問が生じてしまうのは、誰もが経験する事だろうか。実際に会った事がない不思議な関係。知っているようで知らないのは、ネットでなくとも他者であれば、誰もが当て嵌まるのだろう。
 時と場所が限定されるだけではなく、機械が仲介する糸電話。耳と口のどちらをコップに当てようか。ぎこちない動作をしてしまう自分が思い浮かぶ。パソコンの画面を介した会話は、そんな余所余所しさを顕著にしたみたいだ。
 僕はその人とチャットで言葉の遣り取りをしていた。けれど共通の話題を上手く見つける事が出来なかった。嘘を付いて相手の興味と自分の興味を重ね合わせた。けれど自分が興味も知識もない話は、盛り上げる事も展開する事も出来なかった。
 すぐに話は尽きてしまった。僕の脳裏に糸の電線が切れるイメージが浮かぶ。世の常は常のまま。それ故に、無理に話を続けた。
 どうにか話を続かせるために話した内容。相手をいじくったつもりが、相手をからかう内容になってしまった。僕は慌てて謝った。けれど相手がどんな表情を顔に出しているのか、ライブカメラ不要のチャットでは知る事が出来なかった。相手は、「用事があるから。」と書き込んで退室してしまった。
 「ごめんね。」って言われれば、何でも許せる訳じゃない。自分の胸に手を当てれば分かる。許してほしい気持ちと、許さないでほしい気持ちが混ざり合う。
 些細な事は、誰にとっても些細な事ではなかった。これは自分に対してなのか、相手に対してなのか。なかった事にしたい気持ちはとてもやましく感じた。謝るのなら、最初からしなければ良いのに。そう思うのは今度で何度目だろうか。同じ過ちを繰り返す中で、気付きと成長があると信じたい。三羽飛び去る。
 自分で墓穴を掘って、自分でその場所に居づらくする。無神経な発言も、輪を乱す発言も、否定するだけの発言も。
 現実で溜め込んだヤナモンを誰にも吐き出せず、ネット世界で漏れ出していた。漏れ出したのは自分の所為。それだからなのだろう。僕は故意にからかったのかもしれない。四羽飛び去る。少し心地良かった。罪悪感が後からやって来ても、溜め込んで膨らんだ風船は萎む快感を覚えた。五羽飛び去る。
 調子に乗っている。六羽飛び去る。優しさや思い遣りの欠片も見つからない。自分で自分の居場所をなくして喜んでいる。さかでなしだね。七羽飛び去る。
 自虐的になれば、気持ちが楽になる訳ではない。周囲の人が優しく近寄ってくれる訳でもない。それでも自虐的になってしまうのは、なぜだろう。だから僕はどこへも行けなかった。
 飛び去る者はなかった。飛び去らなかった訳ではない。全て飛び去ってしまったのだ。飛び去った姿は、僕を見捨てたように見えるのだろうか。それとも。
 僕の眼には映っていた。羽をランドセルのように背負った、妖精のような者達の姿が。網膜に映っていたのに、心は認識しなかった。網膜で受け取った刺激はシグナルとなっても頭へ運ばれなかった。見えるのに視えなかった。
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