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知れない街 - 3話:1月11日
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1月11日
 僕は数少ない友人を一人失いました。だけど、それで良いのかもしれない。そう心は感じてしまいました。友達の数が少ないから、減らすのが怖くて、無理矢理付き合っていた事実がありました。
 その子はいつも愚痴を言っていました。仕事の事、家族の事、友人の事。愚痴以外の話をしてくれなくなったのはいつからだろう。それは僕に心を開いてくれたと考える事も出来るのだろう。
 愚痴を聴いては、慰めた。その子は解決方法よりも、違う言葉を求めた。同情や慰めの言葉。どうしてだろう。その子とのメールの回数が減ってしまったのは。僕はメールを読んでも、直ぐには返信しなかった。電話が掛かって来ても、無視する事もあった。僕は疲れたのかもしれない。
 そんな僕の心境の変化を、その子は気付いていたのだろうか。聞けるはずもないし、もう知る事もないのだろう。紡ぐ時間はゆっくりで、裁断する時は一瞬で。
 その子はいつも否定的でした。自分に自信がないのが伝わりました。僕も自信がありません。なんだか、似ているね。
 その子は仕事に対して上手くいかない話を良くしていました。仕事をする前から、「今日、上司に怒られたらどうしよう。クレームが来たらどうしよう。」と、仮定が実現すると思い込んでいるかのようでした。
 「怒られずに仕事終わって良かったね。怒られる前から怒られる事に悩んで、疲れたんじゃない。」と諭しても、理解してくれる事はありませんでした。試合はいつも長期的で辛抱強さが大事なのでしょう。人は直ぐに変化する事は出来ないのだと、僕は自分に言い聞かせました。自分を変える事は出来ても、他人は変えられない。
 仕事が下手と何度も言っている割には、上司に褒められたり、表彰された事を話します。この話の展開はとても危険だと僕は思いました。勉強を全くしていないと主張しながら、良い成績である人と似ていると思います。
 もし仕事仲間に同じ話をすれば、表彰された事を笑顔で褒めるでしょう。けれどそれは表向きかもしれません。人によっては、その子に悪いイメージを抱くでしょう。仲良しごっこの世界はいずこ。
 「その話の展開で、同じ話をしない方が良いよ。」僕は言葉を文字と言う方法で、その子に伝えました。「ごめんなさい。ごめんなさい。本当に。当分連絡控えるね。」その子の返事は文字として僕に伝わりました。
 きっと、僕の言葉が直接すぎたのかもしれません。きっと、無機質な文字で伝えたのが悪かったのかもしれません。きっと、否定的な彼には伝えるべきではなかったのかもしれません。僕は、いつも彼が欲しがる言葉を知っていたのに。そう思う事で、僕が感じたその子への嫉妬が存在していたのかもしれません。神隠しに遭っていた嫉妬。
 きっと僕は伝える事で、関係が悪化して疎遠になる事を知っていたのかもしれません。いいえ、心の何所かで意識していなくても知っていたでしょう。
 そう思うと、このまま関係にピリオドが打たれても良いのだろう。けれど、その子を傷付ける終わらせ方をしてしまった。傷付けると分かっていた。その子の愚痴にうんざりした僕の最後の抵抗だろうか。そんな僕に僕は嫌気が差す。幕を閉じる方法は、考えれば沢山あったのに。
 その子が残した「ごめんなさい」の文字は一回だけではありませんでした。僕は、そこに残る余韻がとても悲しく感じました。何に悲しいのだろう。謝られた事。それとも・・・。
 優しさはおせっかいにもなる。それは与える側ではなく、受け取る側が決める事なのだろう。僕は謝るべきなのだろう。故意に傷付けた。そしてきっと、謝らないで終わるのだろう。そんな自分を嫌ってでも、謝らない虚しさを空虚と呼ぼうか。そんな空虚は、月からはみ出た月明かりが夜空に混じった部分と良く似ていて。
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